はじめに
データ活用は企業の競争優位性を確立するための不可欠な要素となっています。中でも、基幹システムであるERP(Enterprise Resources Planning)に蓄積されたデータの有効活用は、企業全体の最適化に不可欠です。
本稿では、機械製造業を営む架空の企業「リクリオ精工株式会社」のストーリーを基に、ERPデータを中心としたデータ活用の本質と実践的なアプローチを解説します。
データ基盤構築から分析、そしてビジネスへの応用まで、具体的なステップを踏みながら、データドリブンな組織運営のストーリーを説明します。
ERPデータ活用で実現するビジネス競争力の向上
リクリオ精工株式会社では、ERP(例:SAP S/4HANA、Microsoft Dynamics 365、Oracle ERP)データを核としたデータ活用を通じて以下のビジネス目標を達成しました。
- 営業部門の売上予測精度向上: ERPの販売データや顧客データを分析し、精度の高い売上予測を実現。需要変動に対応した柔軟な生産計画を策定。
- サプライチェーンの最適化: ERPの発注データ、在庫データ、生産計画データを統合的に分析。サプライチェーン全体の最適化を図り、リードタイムの短縮とコスト削減を実現。
- 製造プロセスの効率化: ERPの生産管理データ、品質データを活用。製造プロセスのボトルネックを特定し、生産効率の向上と不良品発生率の低減を実現。
- 経営戦略の高度化: ERPの財務データ、販売データ、生産データを統合分析。経営状況をリアルタイムに把握し、データに基づいたボトルネック検出と迅速な意思決定を実現。
- 予知保全の実現と稼働率向上: ERPの設備情報とIoTセンサーデータを連携。設備の稼働状況をリアルタイムに監視し、故障予測に基づく計画的なメンテナンスを実施。ダウンタイムを最小限に抑制。
これらの目標を達成するために、リクリオ精工株式会社では以下のデータ活用戦略を実践しています。
- ビジネス部門・マーケター: ERPデータとBIツール(例:Tableau、Power BI)を連携させ、セルフサービスBIを推進。各部門の担当者が自らデータを分析し、業務改善や課題解決を現場主導で実践。
- データサイエンティスト/エンジニア: ERPデータとIoTデータ、品質データなどを統合し、DWH/DataLake (例: Snowflake, Amazon Redshift, Google BigQuery, Azure Synapse Analytics, Azure Data Lake Storage) で高度な分析を実行。データに基づいた新たな製品開発、製造プロセスの改善、コスト削減を推進。
- 経営層: ERPデータ+周辺システムのデータを含めた包括的なダッシュボードやレポートを活用し、経営状況をリアルタイムに把握。データに基づいた経営判断を迅速化し、企業の成長を加速。
データドリブンを支えるデータソース
リクリオ精工株式会社では、以下のデータソースを統合的に活用しています。
- ERPデータ:
- 販売管理: 受注情報、売上情報、顧客情報など。
- 購買管理: 発注情報、仕入情報、サプライヤー情報など。
- 生産管理: 生産計画、製造実績、在庫情報、BOM(部品表)など。
- 在庫管理: 在庫情報、入出庫履歴、棚卸情報など。
- 会計管理: 財務諸表、予算情報、経費情報など。
- 設備管理: 設備情報、メンテナンス履歴など。
- IoTデータ: 製造設備の稼働状況、温度、振動、電力消費量などを計測する各種センサーデータ。
- 品質データ: 製品検査結果、不良品情報、検査員のコメントなど。
- CRM・顧客データ: 顧客属性、購買履歴(製品の利用状況、頻度など)、問い合わせ履歴、キャンペーンへの反応、顧客満足度など。
- 設備ログデータ: 製造設備の稼働ログデータ。
これらの多様なデータソースを組み合わせることで、部門を横断した分析が可能になり、製造プロセス全体を最適化します。
データ基盤アーキテクチャ
リクリオ精工株式会社では、ERPデータを中心としたデータの有効活用を支えるため、以下のようなデータ基盤を構築しています。
- Raw Data Layer: 各システムから取得した生データをそのまま保管。ERPデータは、1次データとしてのありのままの価値を持ち、すべてのデータ活用のスタートとなる元データです。再分析やデータ監査に備え、データの構造や形式を保持します。データソースを直接運用するデータ提供者とデータ利用担当者が同じデータの理解に立ちデータ利活用運用することは重要な出発点となります。
- Middle Layer (DataMart): 分析目的に特化してデータを構造化・加工。このレイヤーでは、目的に応じた集計結果を格納したDataMartを作成し、活用します。例えば、製品別売上データ、設備別稼働時間データ、サプライヤー別リードタイムデータなど、分析に必要な形式に変換します。データの処理にはETLツール(例: Informatica, AWS Glue, Azure Data Factory, Talend)を活用します。
- Presentation Layer (Report Layer): BIツール(例:Tableau、Power BI)やダッシュボードで可視化するための集計データを格納。KPIなど計算結果について瞬時にアクセスできる環境を提供します。必要に応じてドリルダウンによる詳細分析も可能です。ERPデータを活用したKPIレポートなどを提供します。
帳票の出力はERP本体からだけでなくデータ基盤上Presentation Layer上での生成が可能です。ERP本体を複雑化せずクリーンなコアを保つことにも貢献し、ERP上のアドオン削減などにも効果を発揮します。
各レイヤーを分離することで、データ管理の効率化、再利用性の向上、分析ワークフローの柔軟性を確保しています。
データ利活用フロー
リクリオ精工株式会社におけるデータ利活用は、以下のフローで実現しています。
- データ収集: ERPシステム、IoTセンサー、品質管理システム、設備ログデータなどからデータをRaw Data Layerに収集。
- データ加工: Raw Data LayerのデータをMiddle Layerに構造化・加工。データの処理にはETLツールを活用します。
- データ集計: Middle Layerのデータを集計し、Presentation Layerに格納。
- データ可視化: Presentation LayerのデータをBIツールやダッシュボードで可視化。レポート・帳票出力、ファイル抽出提供なども含まれます。
- データ分析: 可視化されたデータをもとに、課題発見、意思決定、戦略策定を行う。
この継続的なサイクルにより、ERPデータを最大限に活用し、継続的な改善を実現します。
まとめ
リクリオ精工株式会社のストーリーから、ERPデータが製造業におけるデータ活用の要であり、企業全体の最適化に不可欠な要素であることのご説明を行いました。
ERPデータ活用を核としたデータドリブンな組織への変革は、適切な戦略とデータ基盤を持つことで、企業の競争力を効果的に高め、成長を加速させることができます。
もし、貴社がERPデータの活用に課題を感じているのであれば、ぜひ弊社にご相談ください。
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